こんにちは、歴史と漫画好き。
いのまんです。
今回は「鬼人幻燈抄」最初期、葛野編に登場するいつきひめこと白雪についての紹介です。
主人公・甚夜の幼馴染で兄弟とも呼べる存在の白雪。
彼女の存在が江戸～平成へと続く甚夜の長い道のりの根幹にあるものとなります。
序盤にしか出てこないが、忘れてはいけない人物です。
「鬼人幻燈抄」～作品詳細
作者：中西モトオ
出版社：双葉社
ジャンル：和風ファンタジー
発行巻数」既刊11巻（2022年11月現在）
兄妹のように育てられた3人
天保11年（1840年）、刃物作りが盛んな葛野集落で白雪は、いつきひめの母・かえでと巫女守の元治の子として生まれます。
そして後に母の跡を継いで葛野集落”いつきひめ”という巫女に。
いつきひめとなった時から、名前も”夜”のつく名”白夜”と呼ばれるようになります。
甚夜と妹・鈴音とは、父・元治が連れてきた子で幼少期から兄弟のように育ってきました。
兄弟同然で育ちでも巫女守となった甚太といつきひめとなった白雪、そんな二人は少なからず恋心を抱いていました。
”いつきひめ”として普段は務めを果たしているが、甚太の前では元の白雪、年相応の女の子に戻ったりもします。
白雪は幼いころからいつきひめとなっても甚太を想い続けています。
しかし、妹・鈴音も同じく甚太を想っている一人でした。
交錯する白雪と鈴音の想い
甚太の妹・鈴音は鬼です。
片目には包帯、年齢的には14.15歳頃なのだが5歳くらいの年ごろで身体的・精神的に成長は止まっています。
その理由は、兄の事が好きだから。
しかし、兄が白雪の事を好いているのもわかっています。
鈴音にとって大好きな兄は”兄”のままで、白雪と幸せになってほしいという想いから自分自身の成長を止めています。
そんな彼女の元に”遠見”の力を持つ鬼が家にやってきます。
未来を見る事の出来る”遠見”の鬼は鈴音に、白雪と清正のシーンを見せます。
甚夜が好きだから、異性として好きだから、甚夜が幸せになる事だけを考えて、その過程には白雪という存在が必須なんだと思っていました。
だから甚夜が白雪と一緒にいる事を許していたのて、大切だからこそ自分の感情（成長を止めて）を殺してまで二人の幸せを願いました。
しかし鈴音の”個人の感情”とは裏腹に、白雪は葛野の里を第一に考える”公人としての役割”を全うします。
その白雪の行動を鈴音は理解できません。
ずっと家の中でだけ過ごしていて、他人との交流もなく兄と白雪のみと交流する生活。
成長しなかった内面は、甚太と白雪の表面しか見ることは出来ずに”遠見”の鬼の
「白雪は他の男と同衾している」
物事の上っ面しか見通すことが出来ず、歪な恋、歪な成長をしてきた鈴音は、相手の策略ながらも”嫉妬”から鬼へと変貌。
恋敵であった白雪は頭と胴を引き裂かれて無惨に殺されてしまいます。
いつきひめとして果たす役目
一族の女性しか継げない”いつきひめ”という存在。
白雪は”いつきひめ”、甚太は”巫女守”となり、お互いに個人ではなく村にとっての公的な人物へと関係性は変化しています。
互いに好きあっている関係だが、立場が二人を共にいさせません。
村の血を引いていない者はいつきひめと結ばれないという掟があるから。
そして跡継ぎを作る為には子を成すことは必須となります。
しかし甚太は村の外から来た人間。
”いつきひめ”となった白雪と結ばれる事はありません。
白雪は、白夜として村長の息子でもう一人の巫女守・清正と結婚することになります。
相手への想いや個人としての感情ではなく、”いつきひめ”としての役割を全うする生き方を選ぶことを甚太は分かっていました。
また白雪も甚太が、自分の感情ではなく”巫女守”としての役割を全うする生き方を選ぶとわかっていました。
白雪は高潔であり過ぎました。
白雪としても、鈴音も可愛い妹だったのは間違いありませんでした。
”いつきひめ”として社で一人孤独に過ごしている時に、一人で遊びに来ていた鈴音に喜ぶシーンもありました。
ただ鈴音の想いは知る由もなく、村の公人としての役割を優先した事がまさかあんな悲劇を生むなんて思わなかったでしょう。
そして、死後も辱めを受ける事になるなんて…
残雪酔夢
時代は江戸の末期※重大なネタバレ有。
葛野で亡くなったはずの白雪は、時代を超えて姿を見せます。
安らかにねむっていて欲しかったと思うほどに…
江戸で流行りのお酒”ゆきのなごり”、初めは辛くて飲めたものではないが飲み慣れていくと極上の味へと変化していく不思議なお酒。
そんな不思議なお酒”ゆきのなごり”には悲しい秘密が潜んでいます。
江戸編に登場する、善二・直次といった人間にはは辛くて飲めたモノじゃないと口を揃えて言うが、鬼である甚夜には薄くて味のしない酒、そんな酒だが飲み慣れてくると中毒性の高いお酒になっていく。
”ゆきのなごり”は「人を鬼へと変化させる酒」でした。
甚夜は既に鬼のため、味の薄いお酒と感じていたのです。
ただ、”懐かしいと感じる酒”だと言っていますが…
”ゆきのなごり”はどうやって造られたのか！？
”ゆきのなごり”を売っていた酒屋は金髪の女性からお酒の湧き出る泉を紹介してもらったとの事で、この金髪の女性こそ甚夜の妹で鬼神へと変わった鈴音でした。
お酒を造る手段は、”非業の死を遂げた骸”を泉に漬けておく事
泉に漬かっている骸は首の無い幼馴染・白雪の亡骸。
葛野の地から甚夜が旅立って約15年、白雪の亡骸はどこかに保管されていて泉の中に放置されていた事になります。
怒りに震えるかと思いきや、甚夜は懐かしむかの如く大切に首の無い白雪の遺体を引き上げます。
甚夜は葛野から旅立ち孤独と憎悪との戦でした。
どんな形でも想い人にもう一度会えたことを噛みしめている事が、3作目残雪酔夢の表紙の絵で感じられます。
甚夜の穏やかな雰囲気とは裏腹に、読者である自分自身が残酷すぎる鈴音の所業に怒りを覚えそうになりつつも、憎み切れない鈴音という存在に振り上げた拳の落としどころがわからずにただ震えていました。
読めば読むほど、感情の置き所に迷う白雪との再会シーンとなっている。
東菊～自分の事は忘れて欲しい
時代は明治に
マガツメと名を変えた鈴音、鈴音が捨てた感情がマガツメの娘として甚夜の前に登場します。
3代目秋津染五郎の弟子である宇津木平吉。
黒く長い髪に白い肌の東菊という鬼に依頼されて人探しをしていた。
東菊という鬼は、白雪です。
正確には白雪の姿をした鬼で、記憶も人格も全くの別人です。
葛野の地で鬼となった鈴音は首だけを持ち去っていますが、その首をもとに白雪の姿をしています。
東菊自身もはっきりと探し人を把握していないが、探しているのは甚夜である。
白雪の容姿の鬼・東菊の能力は、記憶の消去・改変でした。
東菊は、甚夜にかかわるすべての人にある甚夜の記憶を消去する事。
明治編では甚夜に血の繋がらない娘・野茉莉がいます。
幼少の頃から育て、少女になり、女性になる。
肉体の成長が止まった甚夜と、さらに年を重ねていく野茉莉がこれからどんな風に一緒の時を過ごしていけるかを考えていた矢先の出来事です。
白雪の姿をした東菊によって、野茉莉の記憶から甚夜という存在が消えます。
甚夜の想い人・白雪は死してなお2度も辱めを受けます。
もし白雪が甚夜と共に生きて子供を成したら、野茉莉のような親思いの子供を育てて慈しむ姿が見れたでしょう。
そんなことを考えると、甚夜が20年間大切に育ててきた野茉莉の記憶を白雪の姿をした鬼に奪わせる。
そこまで白雪を憎んでいたのかと思ってしまいます。
葛野の地のいつきひめ
大正編10作目・夏雲の唄
白雪自体は登場しませんが”いつきひめ”の事が語られます。
いつきひめは人間と鬼との混血です。
いつきひめの一族は鬼の血が流れた存在で巫女守は鬼となった時の対応要員でした。
危険な存在だから監禁していて巫女守はいずれ鬼となる恐れのあるいつきひめに対処するための存在です。
”いつきひめ”白雪と”巫女守”甚夜の関係は、鬼となった時の白雪を処断するための甚夜です。
白雪が鈴音に襲われて亡くなった時、村には”いつきひめ”がいなくなったという悲壮な雰囲気はありませんでした。鬼となる前に亡くなって良かったという事です。
むしろ村長は、清正と白雪との婚姻を強引に進めた事を謝っていたくらいです。
葛野の地は鬼という存在が身近である事から、成長しない鈴音に対しても大きな驚きはなかったのでしょう。
また白雪の母・かえでは鬼化して当時の巫女守である元治に斬られています。
もしかしたら平和に生きていたとしても、いずれは白雪が鬼へと変わり甚夜が斬る結末になっていたかもしれません。
そう考えると白雪の結末に”幸せ”は無いと言えます。
現実でもあったかもしれない未来でも、あまりに切ない白雪という存在。
鬼神幻燈抄という物語を通じて最後に”白雪の未来は幸せだった”と思える結末があるのか、とても気になるところです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
したっけね！
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